大分大学医学部

先進医療科学科 講師 八尋隆明様
 

生成AIに感じる可能性

―長年の課題「チーム医療」の実現に向けて

医療や教育の分野でも、生成AIには大きな可能性を感じています。幅広い用途が考えられ、非医療従事者向けの情報提供文書の生成、最新の医療情報の要約や翻訳など、多方面での活用が期待されます。特に、膨大な医療文献から関連情報を抽出し、研究者や医師が必要とする知識を短時間で提供できる能力は、医学研究の効率化に大きく寄与すると考えています。
ChatGPTのようなサービスも素晴らしいのですが、独自に開発した医療教育支援プラットフォーム「OTASKEN」の開発を通じて、生成AIのポテンシャルの高さを実感しています。このプラットフォームは外部システムとの連携や大学独自のデータの統合を可能にしており、学生の学習支援や教員の指導を促進するよう設計されています。生成AIは教育の質を向上させ、医療現場での効率と精度を高めるための鍵となると確信しています。
医療に関わる人の中には英語が苦手な方もいますが、医学論文の多くは英文です。生成AIを使うことによって英語論文を含む海外の最新情報をスピーディーに入手することができるようになります。それによって、医師だけではなく、医療現場で対応を担う看護師や臨床検査技師などコメディカルスタッフの情報収集力が強化されるのではないでしょうか。長年「チーム医療が重要」と言われてきましたが、生成AIの導入によりコメディカルスタッフが医師と同等のスピードで医療情報を得られるようになれば、知識の底上げが実現し、医療現場でのチーム医療の発展が期待できると考えています。

Panorama AIの実用性

―生成AIの活用で目指す「健康で幸せな暮らし」の実現

Panorama AIについては、その先進的な技術と実用性に大きな期待を寄せています。RAG(Retrieval Augmented Generation)という技術により、企業・学術機関・自治体などが独自に保有するデータから情報を抽出することができ、生成AIの回答や分析に組み込むことにより、データの正確性の向上や、特定のコンテキストに合わせて情報を生成できると認識しています。大学や自治体のデータを活用してカスタマイズされた情報サービスを提供するなど、幅広い用途が考えられます。生成AIの活用範囲を大きく広げ、特定のニーズに合わせた情報提供ができると考えており、医療や教育に限らず様々な分野に価値をもたらすのではないでしょうか。
生成AIの活用範囲について診断や治療など医療の中核分野への活用が期待されていますが、現状としては、まだ難しいと考えています。その前段階として「予防医学」の分野での活用を強く期待しています。私たち研究者の役割として、最大の目標は「国民が健康で長く幸せに生活できること」だと思っています。健康寿命が延びれば人々が長く働くことができ、人材不足の解消にもなり医療費の削減にも繋がります。大きな社会問題の解決に貢献することができるのです。企業・学術機関・自治体などがそれぞれの強みを持って連携し生成AIを活用することで、ひいては世界中の人々の「健康で幸せな暮らし」の実現を目指していきたいですね。

SDTへの期待

頼りがいのあるテクノロジーパートナー

SDTとの付き合いは2年弱になりますが、テクノロジーパートナーとして非常に頼りがいのある存在だと実感しています。医療や教育の領域では内容の高度化が急速に進んでおり、ウイルス学、臨床ゲノム検査学、細胞診断学など私の専門分野だけでなく、AIやクラウドコンピューティングなど異なる技術領域の知識の融合が重要になってきました。
SDTはただの技術提供者ではなく、最新技術の深い知見に加え、生成AIを含む技術動向や最新の研究動向に関する貴重な情報も提供してくれます。そのおかげで私たちは自分たちの研究やプロジェクトを、より広い視野を持って効率的に推進できるようになりました。何よりも、国民にとって有益なものを創りだす人を助けたいという思いを共有できていることが大切です。SDTさんと同じ方向を向いて、一緒に頑張っていきたいと考えています。

連携協定の意義と今後の取組み

―「この街で暮らせてよかった」と思える街づくりへの挑戦

この産学官連携協定は、生成AIの活用による事業の実証運用を目指すという点で非常に意義深いものです。この協定を通じて、私たちはPanorama AIの技術を活用し、特に医療分野での実用化を加速させていきたいと考えています。この協定は技術導入以上の意味を持ちます。医療サービスの質の向上、住民の健康促進、そして最終的には地域社会の福祉向上を目指す一つの大きなステップとなります。
「予防医学」の話もしましたが、具体的には住民向けの健康啓発プログラムの開発や、公共の健康管理データを活用した効果的な介入策の策定に取り組む予定です。住民の皆さんが健康で幸せに暮らせる街づくりを実現できれば、人口の増加にも繋がり、地域の活性化にもつながるのではないでしょうか。私の生まれ故郷である別府市が全国に先駆けて、モデルケースになれたら嬉しいです。病院と自治体と企業が組んで「最期までこの街で暮らせてよかった」と思えるような、誇りを持てる街づくりを目指していきたいと考えています。